shadowgraph

Atsuya Akao featuring uraocb "Shadowgraph" (LIVE)
from live show on August 25th 2013



shadowgraph 「影絵」


人は心に影を宿す
影はいつしか人を蝕む
人は影にこそ意味を見出だし
影が作る絵に身を潜める


望むと望まざるに関わらず
落とされた双子が食卓を囲む
カップ一杯のインスタントスープを
2人の兄弟で分け合う
彼らはまるでこの世界の
ありとあらゆる不幸を
全て引き受けてしまったような
物憂げな顔で空腹を凌いで
そびえ立つ不夜城の下
立ち並ぶゲットーの中
雨露と風が吹き込むトタン屋根の
マイホームで 二人は遠い先にある
未来を夢見ている
兄は画家を目指し
弟は演劇を志す


時は過ぎ 月日は流れ
兄弟は別の道を歩む
出生を隠した弟は
一躍映画スターにのし上がる
運と実力に恵まれなかった兄は
ゲットーの暮らしを続ける
相変わらずのその日暮らしの
食うも食わずの貧困と絶望
耐え切れず入るとある料理店
一気にランチをたいらげると
金を払わずに外へ飛び出す
息を切らして
食べたばかりのランチが
逆流するかと思うまで
走り続ける
追ってくる店員を振り切り
何とか逃げ延びたと思った瞬間
兄はショーウインドウの前で立ち止まる
液晶の大型スクリーンに映し出されたのは
シャッターの洪水に照らされて
華やかなスーツを纏い
爽やかな笑みを讃えた自分に瓜二つの顔
そう 弟の笑顔


人は心に影を宿す
影はいつしか人を蝕む
人は影にこそ意味を見い出し
影が作る絵に身を潜める


冨と成功を得た弟は
僅かな時間を利用して
身分と顔を隠して
10年ぶりに
生まれ育ったゲットーを訪れる
何も変わらない
正体の分からない煙が立ち込める街並み
その奥で沈黙を守り続けている
トタン屋根の今にも崩れそうな廃屋
嘗て暮らしていた我が家
弟はその扉をゆっくりと開ける
真っ暗な空間 隙間から陽が僅かに差し込む
人の気配は感じられず
嘗てそこにあった
生活の息吹は全て削り取らている
家具は倒され、食器が割られて
床に散乱している
足の踏み場もないほどに
荒廃した散らかり放題の部屋
僅かにスペースが開けられた
ベッドルームの壁に
立てかけられた2枚のデッサンを
弟は見つける


1枚は華やかな衣装に身を包み
満面に笑みを讃えた肖像画
もう1枚はよれたシャツを羽織って
力なくやせほった
焦点の定まらない目をした肖像画
同じ顔をした 二枚の肖像画
二人の肖像画
二人の兄弟の肖像画


弟はそのデッサンの前で暫く立ち尽くす
突然錆びたドアを開ける音
弟は振り返る ドアはすぐ閉まり
駆け出す足音が聞こえる
弟は家を飛び出す
ゲットーを覆いつくす煙が
影のようにまとわりつき
街は再び沈黙を取り戻す


人は心に影を宿す
影はいつしか人を蝕む
人は影にこそ意味を見つめ
影が作る絵に身を潜める


トタン屋根の家に
月の光が差し込む
兄弟は手を光にかざす
映し出される影が2つの生き物の姿に変わる
影は寄り添い 暗闇に遊ぶ
消える事のない影が
光の中で魂を宿す