リバース

ブログ上で、初めて詩を公開します。


これは、2月に書いたものです。
先日のディルディルでも、プレイしました。
mixiでは発表していたのですが
マイミクの方でもご覧になっている方は
少ないと思うので、こちらでも掲載します。


震災の少し手前に書いたものですが
震災の前後では、言葉の意味合いが変わってくるものだと
今読み返すと驚く部分もあります。
それでも、ここで書いた趣意はその時から
これからも変わらない。
ということを信じて。

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「リバース」


拝啓


ビルの隙間に供えられた花々が
養分を失って息絶える世界
夢が遠のく意識を失い
限りなく薄れていく未来
要は塞がった針の穴に
糸を通す仕事を引き受けたあの樹海
つまり水を得た魚さえ
次々に沈んでいく 
ぬかるんだ水平線へ漕ぎ出すボートに
載せられた僅かな非常食とビタミン剤を
ふとした弾みに落とした水面は
どこまでも雑然とした緑色で
それはとりとめもなくどこまでも緑色で
東アジアの草原をイメージさせるような
佇まいで しかしそれでも
どこまで漕いでも陸地には辿り着かない
ボートの船板から いつの間にか沸き立つ
水の泡
フィナーレが限りなく鳴らしている
ファンファーレと共に 
自分の意思で進む海路を絶たれるのは
一体いつになるのでしょうか
さっきから足の裏に入り込んで
ビチャビチャに靴一杯分を満たした
希望が 水の泡に 移り変わる
その境目を示す 深夜2時
月の灯りが時に人の心を
鮮やかにさせたり 乱したりする
瞬間にだけ可能性を感じる
動物の直感


拝啓


砂利道の中心に描く魔方陣に沿って
遊ぶ無邪気な子供達が向かう未来
それは 約束など忘れた頃に
気付いたベルトコンベアーに
運ばれている私の
300メートル先を転がっている老人が
右手に握り締めていた写真が
はらはらと落ちていく
老人は その行方を追わず従順に
残りの時間を過ごしている
その横顔は 物言わぬ哲学者のそれであり
我々は 老人に畏敬の念を抱かずには
いられないのではないだろうか
だが それも僅かな一瞬に過ぎない
諸君 それは僅かな一瞬に過ぎないのだよ
我々が交わした契約は 我々から
一切の
土地を
音を
色を
言葉を
一瞬にして灰にする権利を放棄させることを
引き換えにして 予め定められた包装紙の中へ
滑り込んでいくことを要求する
当局の意思からすり抜けた
老人の手から滑り落ちた1枚の写真が
風に乗り 開け放たれた収容所の外へと
飛んでいく
その瞬間にだけ可能性を感じる
動物の直感


拝啓


赤い液体が巻き散らされた
ストリートが踊り場になって
民族音楽だけをけたたましく鳴らす
戦車に市民が集まるという奇跡
続かない奇跡に乗って分かち合う
赤の奇跡
カップヌードルのコマーシャルが
延々と流されているかのごとく
画面の端っこに追いやられた中継は
天気予報
雨の色は真っ赤になって降り注いだ市街の
中心にそびえ立っていた銅像
象徴で 頂上で 棒状で
養生できなかった
引き倒されて 数々の財宝を抜き取られていく死骸
ルビーの目 サファイアの鼻 ダイアの口
ことごとく朽ち果てては 打ち捨てられて流される
ガンジスという川
無抵抗の意味が複数になって流れていく渦に
いつの間にか巻かれていた
あいつと
あいつと
あいつと
あいつが
次の象徴であらせられる確率を
予想するオッズメーカーの提供で
お送りしました

切り替わるはずの画面が固まって
頭をひたすらに下げ続ける
マスコットの足場が徐々に沈んでいく
そこは
樹海であり
水面であり
山荘であり
壁であり
収容所である
ガンジス
という
川の
ほとり

無邪気に魔方陣を描き続ける
子供達にだけ可能性を感じる


動物の直感