クロスオーバーする場所で

基本的に、ポエトリーリーディングのオープンマイクという空間は、他のライヴイベントと比べても異なる空気感を持っている。色々な場所から、様々な人生を送っている人達が読むべき詩を持ち寄って集まる。それぞれが置かれた境遇を、私たちは知らない。互いに近況を話し合う時間も充分にあるとは言えない。それでも、必ずといって言いほど現場で顔を合わせる人達がいる。私も彼らも、互いの環境を詮索することはない。ただステージの上で詩を読み、ステージを降りる。それを繰り返し続けている。


様々な現場に上がる中で、私はラッパーと数多く知り合う機会を得ることができた。色々な話をする機会もあり、そこで彼らがいかに自分の表現を掘り下げて、深めていくことにひた向きな人達であるかを知った。その中でも、印象的なひとりが田中光だった。彼とは、SSWS(新宿スポークンワーズスラム)で知り合った。フリースタイルユニットの一人として出場していた彼のパフォーマンスは圧倒的でずば抜けていたが、それよりも印象的だったのは、自分も含めて同じSSWSに出場していた詩人のパフォーマンスを食い入るように見つめていたことだ。彼は、ヒップホップという自分のフィールドと詩の朗読を区別なくひとつの表現として捉えていた。それ以来、私は自分が大切だと思うタイミングで、彼にオファーを出してきた。実際、出会ってから4年位経過するのだが、会った回数は10回に満たない。会うのは大概現場で、そこで長い話をしたこともないのだけれど、私の方が一方的に彼を信頼して今回も大切なタイミングでオファーし、出演を快諾いただいた。



SSWSとUMB。スポークンワーズスラムとMCバトルという2つの言葉の競技でファイナリストとなった唯一のMCである田中光。日本語を語彙巧みに、自由自在に操るそのテクニックは言わずもがな、彼の強みはその情報量の多い言葉のひとつひとつを、しっかりと聞き手に届かせることができる技術とパッションだと私は思っている。作品に世界観がしっかりと描かれており、ヒップホップマナーを保ちつつも、どの人にとっても共感することができる普遍的な内容を伴っている。おそらく、来場されていた方の多くは初めてラップのライヴに触れるという方も少なくなかったように思うが、時間が経つにつれてどの方も食い入るように彼のアクトに魅入られていった。それは、彼のステージがジャンルを越えて共有された瞬間であり、ヒップホップというスタイルを持ちながらも、彼が大きなアートフォームを自身の体内に取り込んでいる証でもあるように思えた。


オープンマイク、今回も定数の12枠を埋める方にエントリーいただきました。
ご参加されたのは


死紺亭柳竹さん
そにっくなーすさん
ユウサクさん
三木悠莉さん
ミスターなかむらさん
ジュテーム北村さん
さいとうさん
llasusiさん
DJ 春井さん
こんぺー糖さん
三上その子さん
新納新之助さん


以上の皆様でした。
朗読に舞踏、ビートボックスとダンスのコラボまで。いつにも増して多彩なオープンマイクを堪能させていただきました。


オープニングアクト大島健夫が務め、最後に私が「ひまわり」を読ませていただきました。


私は、オープンマイクとは自由な空間だと思っています。ステージの上で5分間行われることは、全て出演される方に委ねられます。何を話されることも、パフォーマンスされることも制限を受けることが何一つない本当の意味で自由な空間です。
その空間を守り続け、維持するということ。今回はその意味を考える機会になりました。託されていることの大きさを確認しました。まだまだ未熟ではありますが、皆様と共により良い音と言葉の空間を創造できるよう、精進してまいりたいと思います。


オープンマイク「SPIRIT」、次回は5月11日(月)です。ゲストには詩人・文月悠光さんをお迎えします。どうぞお楽しみに!