ONCE AGAIN

ポエトリーリーディングのオープンマイクに、濃い色のスーツにハットをかぶったその男が現れたのは今から3年前、2012年の初夏のことだった。


MELODY KOGAと名乗るその男は、バリトンボイスを響かせた美声で「ジュリエット」という同じタイトルが名付けられた30秒くらいの様々な詩を時間が許すまで読み続けた。それはとてもシュールな光景であり、ジョークのようでもあり、その場にいた詩人たちはただただ呆気に取られていた。


この時から、MELODY KOGAという唯一無二のシンガーと詩人たちの不思議な、そして濃密な交流が始まった。今にして思えば、2012年の初夏という時期は色々なことが起こっていた。言葉を話すこと、伝えることの意味が問われるような出来事が起こっていた。
やがて彼は、朗読だけではなく弾き語りを披露するようになり、詩人達とライヴを共演するようになっていった。何故ミュージシャンの彼は人口の少ない朗読のシーンにわざわざやってきたのだろうという疑問符は、その間も私たちの頭に渦巻いていた。丁度その頃、私は円盤に出演する機会があったのだが、共演したミュージシャンとMELODY KOGAの話になり、彼が長い経歴を持つ歌手であることを知った。疑問と謎は更に深まっていった。


彼がポエトリーリーディングのシーンに姿を現さなくなったのは、大島健夫が主催していた「Poe-tri」が会場の都合で終了した時期だった。そして長い月日が流れた。稀にライヴ会場で顔を合わせることはあったが、基本的には私たちはそれぞれの場所で活動を続けた。その間に、MELODY KOGAの名前は多くの人達に知れ渡るようになった。彼を評して「詩人のようだ」という賞賛を何度も目にした。私と大島健夫の間では「SPIRIT」を始める前からMELODY KOGAの話題は定期的に上がっていた。私たちは、いつか適切なタイミングで、もう一度彼と同じステージに立つ機会を伺っていた。そして、2015年の8月にその機会は訪れた。



ワンコード、30秒ほどの楽曲。30分のステージで50曲の演奏。MELODY KOGAのステージは、「表層的には」この簡潔な3つの言葉で捉えることができる。長いキャリアを持つ彼は、全てをこのスタイルに捧げてきた。生まれては消えていく、繰り返される言葉と声とコード。そのスタイルを曲げることなく、そして、ただスタイルが奇抜なだけではなく、MELODY KOGAの歌と言葉に様々な風景や情感が込められている。時にユーモアであったり、アイロニーであったり、哲学でもある。それらが短いセンテンスの適材適所に散りばめられ、次々に配置されていく。その所作は詩そのものであり、例え現場は変わったとしても、MELODY KOGAは「詩人」であり続ける。あの頃と変わらない、さらに磨き抜かれたビルドアップされたライヴを観て、私は活動を続けてきたこと、MELODY KOGAと再会できたことの幸運を感じていた。


オープンマイクにご参加いただいたのは、登場順に


並四ラジオさん
ジュテーム北村さん
ラビットファイターさん
守山ダダマさん
チャーリーホッパーさん
笹田美紀さん
川島むーさん
ユウサクさん
かとうゆかさん
タオさん
死紺亭柳竹さん
もがくひとさん


以上の皆さんでした。今回は、東京のポエトリーシーンで活躍されている方や初めて読まれる方もいらっしゃって、普段のSPIRITとはまた一味違う趣を持ったオープンマイクになりました。
オープニングアクト大島健夫が「踊れ」を朗読し
最後は私が「金曜日の夜」(ケイコ)・「四つの心臓」(菊池奏子)のミックスバージョンと
オリジナルの「のぶこさん」を朗読しました。


今回のSPIRITは、MELODY KOGAさんをお迎えしたこともあって、演者にも客席にも同じ場所に上がっていた詩人の方がお越しになられていました。この3年間、私たちはどのように生きてきたのか。そして、これからどのように生きていくのかを互いが確認し合うような、忘れられない時間と空間になりました。そのことを胸に刻みながら、新たなるステップへと踏み出してまいりたいと思います。


オープンマイクSPIRIT、次回は9月7日(月)です。ゲストにはポエトリースラムジャパンチャンピオン、岡野康弘さんをお迎えします。どうぞお楽しみに!